立往生の税制改正

租税法律主義
 国民は法律の定めるところにより納税の義務を負い、国が課税又は税制改正をするには法律によることを必要とする。

 でも、この憲法規定は、法律による課税を定めているだけなので、後から作った法律で遡及課税することを必ずしも禁止しているわけではない、との解釈があります。
素直な日本語文の解釈として、これは正しくないと思いますが、既に何十年もの間そういう解釈運営がされてきました。

不利益不遡及の原則の確立
 平成16年の土地建物の譲渡所得と他の所得との損益通算を廃止する税制改正は年初への遡及適用でしたが、遡及課税が許されるかを争った、平成20年1月29日の福岡地裁の判決は「租税法規不遡及の原則に違反し違憲無効」としました。

 この違憲判決を承けて、平成20年4月15日の参院財政金融委員会において『原則として法律は遡って適用されると考えている。ただし、不利益不遡及の原則があるので不利益な規定は、公布日以降に適用される』との国税庁見解が表明されました。

裁判所はそれでも遡及合憲を堅持
 ただし平成20年2月14日、先の判決とは全く逆の相変わらず合憲との判断が東京地裁から出ています。両方とも高裁に控訴されました。

 その後の福岡高裁は合憲、東京高裁も合憲との判決でした。勝訴敗訴の福岡の訴訟はそこで終結し、敗訴敗訴と続いた東京の訴訟だけが最高裁に上告され、訴訟が続いています。すでに上告後2年半が経過しています。そろそろ判決がありそうです。

高裁の論理とこれからの最高裁判決
 高裁の判決の論理は、不利益不遡及は合理的理由があれば許され、その判断は「立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない」、遡及日の1月1日以前の12月18日の日経新聞に自民税制大綱が載っていたのだから、改正は予測されていた事項である、というものでした。

 三権分立の一権としての自覚がなく、政治主義的判決の色彩は予算関連法案立ち往生の今の政治状況を考えると隔世の感です。

 さて、立法の予測があれば遡及課税されても文句を言うな、というような判決を最高裁は下せるのでしょうか。