遺言書の作成

遺産相続が発生すると被相続人の遺産の行方が問題となります。民法という法律に、相続財産を受け継ぐことができる順序と割合が決められています。 これを法定相続人と法定相続分といい、一般的には法定相続人で遺産分割を行うことになります。

遺産分割の協議が整うと遺産分割協議書を作成して、実際の財産分与を行うことになります。

ところが、この遺産分割はよくもめます。よく“争族(そうぞく)”と言われますが、裁判で争ってそれこそ骨肉の争いをしている人たちもいます。 このような争いを防ぐためにも故人が生前に遺言書を作成しておくことをお勧めいたします。

また、以下に該当する人も遺言書を作成したほうが良いでしょう。

1.内縁の妻に財産を残したい
2.内縁の妻の子供に財産を分けたい
3.特定の相続人に財産を多く分けたい
4.事業の後継者に一括して財産を引き継がせたい
5.子供がいない夫婦で、相手方配偶者に財産を残したい
6.相続権の無い世話になった長男の嫁に財産を分けたい
7.特定の相続人に財産をあげたくない
8.遺産の寄付
9.死後に子供を認知する場合

土地の分割

相続時における財産分与やその後の二次相続等を考える上で、重要な要素があります。それは財産の分与方法です。当たり前のこととお考えかと思いますが、これは必ずと言っていいほど争続になります。

自分の子供が3人いて兄弟間を良好なので現預金から土地建物まですべて1/3ずつといった分け方が非常に問題があるのです。現預金はきちんとその場で分けることができるのでいいのですが、土地建物は共有持ち分となります。

相続後直ちに売却してしまうのであればいいのですが保有する場合はどうでしょう。それが収益物件であればその利益を3人で分けなくちゃいけませ ん。仮にその兄弟のうち一人がお金に困ってその物件を手放したいとしたらどうでしょう?また、その兄弟が亡くなった後の相続人たちもお互いに良好な関係で 共有することができるでしょうか?

不動産の分割は、各相続人ごとにひとつずつ分けましょう。公平を期して法定相続分通りきちんと分割するとご自身の意思に反してかえって争続になる可能性が高いのです。

遺留分の生前放棄

遺留分の放棄は、たとえば、「長男に遺産を全て相続させる」という遺言をのこし、そしてその他の相続人には遺留分を放棄させて、長男にすべてを相続させるような場合に行います。

相続開始前の遺留分の放棄は、遺留分権利者が被相続人に対して意思表示することにより行われますが、家庭裁判所の許可が必要です。

遺留分放棄の許可を家庭裁判所に申立できるのは、被相続人の配偶者と第一順位の相続人です。

遺留分を放棄した者は、自己の相続した財産が遺留分に達していなくても、遺留分の権利を行使することはできません。ちなみに、相続開始後の遺留分の放棄は自由ですので、家庭裁判所の許可は必要ではありません。

遺留分の放棄をしても、相続の放棄をしたことにはなりません。遺留分を放棄した者も、相続が開始すれば相続人となります。被相続人が遺言をしないまま死亡した場合には、遺留分を放棄した相続人も相続権を失わないし、遺産分割協議の当事者にもなります。

遺留分の放棄を無限定に認めると、親の権威で相続人の自由意思を無理におさえるおそれがあるため、家庭裁判所は許可する基準を設けています。
① 放棄が本人の自由意思にもとづくものであるかどうか
② 放棄の理由に合理性と必要性があるかどうか
③ 代償性があるかどうか(たとえば放棄と引きかえに現金をもらうなど)
などを考慮して、遺留分の放棄が相当かどうかを判断して、許可の審判あるいは却下の審判をしています。

相続権をなくす

<欠格事由>

相続で優位になるために罪を犯したり、被相続人を恐喝などして自分に有利な遺言を書かせたりすることはあってはならないことです。これらは欠格事由に該当し、相続権を失います。欠格事由に該当するのは次の場合です。

①故意に被相続人、先順位の相続人を殺害した者、または殺害しようとし刑に処せられた者
②被相続人が殺害されたのを知っていながら告発、告訴しなかった者(ただし判断能力が無い者や、殺害者が配偶者または直系尊属の場合は除く)
③詐欺や脅迫により被相続人の遺言を妨害した者
④遺言書を偽造、破棄、隠匿した者

①については「故意」に殺害しようとした場合というのがポイントで、過失によって結果として殺人を犯してしまった場合や正当防衛が成立する場合な どは除外されます。④の場合も、あくまで相続で不当な利益を手に入れようとする者を対象としており、過って遺言を処分してしまった場合などは含まれませ ん。

欠格事由に該当する者がいる場合は、相続登記や名義変更などの相続手続きするために、確定判決の謄本や、その相続人が欠格事由に該当することの証明書などが必要となります。

<相続廃除>

欠格事由まではいかないものの、金をせびったり暴力を振るったりする相続人に相続させたくないというようなこともあるでしょう。被相続人の申請に より、家庭裁判所は相続人の相続権を失わさせることが可能です。これを相続排除といいます。相続排除ができるのは次の場合です。
①被相続人に対して虐待を加えたり、重大な侮辱をした場合
②相続人が著しい非行を犯したとき

ただし、被相続人の意思だけで排除ができるわけではありません。家庭裁判所へ排除の申請をし、認められてはじめて排除ができます。被相続人が「暴 力を振るわれた、金をせびられた」と申し出ても、家庭裁判所の調査で、被相続人にも非があるということが明らかになれば、排除は認められません。また、た とえ相続人と被相続人で相続排除についての合意があったとしても、家庭裁判所は職権で事実関係を調査することができます。あくまで排除の決定権は家庭裁判 所にあるのです。

排除は遺言でも可能です。この場合は被相続人に代わって、遺言執行者が家庭裁判所へ申請を出すことになります。遺言執行者とは、遺言による遺産分割を実行する人のことで、被相続人が遺言で指名するか、相続人の申し立てにより家庭裁判所が選任します。

請求の場合と同様に家庭裁判所に請求を出すか、遺言によって排除は取り消すことが可能です。取り消しの請求が真意であると認められた場合は裁判所は必ず取り消しを認めなければなりません。

尚、相続排除が認められた場合、相続権を失うのは該当する相続人だけです。子がいる場合は子が代襲相続します。

分割できない財産のための代償分割

代償分割とは、特定の相続人(たとえば長男)が相続財産の全部若しくは大部分を相続し、その相続人(長男)から他の相続人(他の兄弟等)に金銭等の資産を交付する手続きです。

代償分割をする際に実務上注意する点としては代償される金額自体の決定に加えて、特定の相続人(代償金の負担する相続人)が実際に他の相続人に対して支払うことができるかどうかの支払能力についての検討をよくしておくことです。

代償金が分割協議どおりに支払われない場合には後日相続人間でのトラブルができてしまうので、代償金の支払期日、支払方法等を遺産分割協議書に記 載しておくことがいいでしょう。相続人間の合意のもとに支払日の設定や分割払いも可能ですが、なるべく早い時期に一括にて支払われることが将来のトラブル を回避することにも繋がります