居住用建物賃借権の相続

まずは相続に関する基本から
 建物の賃借権もまた、他の財産と同じく相続の対象となります。しかし、居住用建物では、当事者にそのような意識がある人は少なく、遺言や遺産分割協議書で誰に承継させるかを明示しないままに推移しがちです。それで、そこに住み続ける相続人が契約更新にあたって、賃貸人との間で、自らが相続したと新しい借主となって契約書を締結し直す例が間々見られます。

相続人資格のない同居者等の立場は?
 もっとも、相続人であるならば、他の相続人が異議を述べない限り、特段困ったことは起きないかも知れません。しかし、これに対し、これまで死亡した賃借人と一緒に同居していた、あるいは、死亡した者の名前で賃借した部屋に住まわせてもらっていた内縁の妻、事実上の養子等近しい関係にもかかわらず相続人資格がない者(以下「同居者等」といいます)の場合は深刻です。彼らは貸主に対する関係で、賃借人の地位を相続したと主張できないからです。

しかし、そのような形式論だけで直ちに明渡請求を甘受しなければならないのでは、余りに気の毒といえます。

居住用建物による建物賃借権の承継制度
 そこで、借地借家法では、居住用建物の賃貸借で、賃借人が相続人なくして死亡した場合、事実上の親族的関係として同居していた者は、相続と同様に賃借人たる地位を承継することができると規定されています。

相続人がいた場合には問題が残る
 しかし、上記の規定は、下線で強調したように相続人がいた場合は適用がありません。そうすると、死亡した賃借人の賃借権は相続人に承継されます。

この点、賃貸人に対する関係では、裁判所は、昔から相続人の持つ賃借権を援用して賃貸人に対抗できるという理屈付けで同居者等の立場を保護してきました。

これに対し、当の相続人が、同居者等における居住の継続を望まず、自ら明け渡し請求をする、賃貸人との間で合意解除する、あるいは、わざと家賃滞納をして解除させるという手段で追い出しを図ることが考えられます。そうした場合には、同居者等の保護は図られません。何らかの立法的解決が待たれるところですが、経済的・感情的対立が絡み、大変な難問です。