徴税虎の巻事件

公務員の守秘義務違反
 国家公務員法、地方公務員法は「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。」と規定し、公務員に守秘義務を課し、違反には1年以下の懲役等の罰則を課しています。

 税務職員に関しては、国民のプライバシーに踏み込む情報を強制的に入手する立場にあるので、その漏洩・盗用に対して個別税法でそれぞれ罰則を加重し2年以下の懲役等としています。
公務員の守秘義務が問題になった過去の有名な事件としては、徴税虎の巻事件と外務省機密漏洩事件(西山事件)があります。ともに最高裁まで争われ、有罪とされています。

徴税虎の巻事件とは
 徴税虎の巻事件は、税務行政上の事件で、昭和33年4月16日公訴提起され、昭和52年12月19日に最高裁判決で決着したもので、満20年に近い歳月をかけて争われています。

 徴税虎の巻とは、「所得標準率表」及び「所得業種目別効率表」のことで、小冊子になっていて、業種別に100円当たりどのくらいが所得になるのかが一覧表になっており、効率表は、例えば、雑貨であれば年間の在庫回転率7・5回、食料品23回転などと業種別に一覧表になっています。

 食料品店で在庫が20万円と聞くと、効率表で23回転させて460万円の年間売上額を算出、次に所得標準率を見ると所得率15%と出ていて、460万円×15%でこの店の所得は69万円、というように推測値を算出するために利用するものでした。

守秘義務違反の内容
 徴税虎の巻は所得税係官全員に配布されていたもので、これを税務署の職員が、民間人に貸与したことが守秘義務違反とされました。平成の初め頃までは、確定申告期に税理士が税務署に応援に出向いたときなどにも、参考資料として配布されていたものでした。

 最高裁は、徴税虎の巻は、本件当時いまだ一般に了知されてはおらず、これを公表すると、青色申告を中心とする申告納税制度の健全な発展を阻害し、脱税を誘発するおそれなど税務行政上弊害が生ずるので一般から秘匿されるべき「秘密」にあたるとして、有罪を支持しました。